2026/01/27

「成瀬は都を駆け抜ける」を読んだ。

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「成瀬は都を駆け抜ける」(宮島未奈著 2025年 新潮社刊)を読んだ。本屋大賞を受賞した「成瀬は天下を取りにいく」,続編「成瀬は信じた道をいく」,そして本書は成瀬あかりシリーズの三作目,完結編だ。「やすらぎハムエッグ」「実家が北白川」「ぼきののか」「そういう子なので」「親愛なるあなたへ」「琵琶湖の水は絶えずして」の短編6編からなる。それぞれの短編は,主人公成瀬にかかわる様々の人の視点で描かれていて,成瀬の人柄にひかれていく。
成瀬はびわ湖大津観光大使を務めている。京大2回生となり,京都を極めると,友人からもらったガイドブックに付箋が貼ってあった100か所すべてをクリアしようとする。そして,盲腸でびわ湖大津観光大使としての琵琶湖疎水のガイドができなくなり,幼馴染で東京に住む島崎に代役を頼む・・・。

とにかく痛快な小説。三作目で完結というのは惜しい。続編が望まれる。

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2026/01/10

地中海世界の歴史8/「人類と文明の変容」

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地中海世界の歴史8/「人類と文明の変容」「古代末期」という時代(本村凌二著 講談社選書メチェ 2025年)を読んだ。104
3世紀半ばごろからゲルマン民族の攻撃が始まり,313年にはコンスタンティヌス帝によるキリスト教の公認,392年にはテオドシウス帝によるキリスト教国教化と続くまさに激動の時代が描かれている。そして395年には,ローマ帝国が東西に分裂している。ゲルマン民族の大移動は歴史で習ってはいたが,これが帝国分裂に少なからず影響しているらしいことが,この本を読んで初めて分かった。中学歴史では,ローマ帝国の授業はわずか1,2時間だけ。ギリシャの都市国家や文化がローマに伝わって,コロセウムや水道橋の施設を作るまでに発展し,キリスト教を国教としたが,東西に分裂した。それぐらいの認識しかない。この「地中海世界の歴史」1巻から8巻を読んで,とても勉強になった。

この本の終章では,本村凌二氏は「地中海文明と,その後の世界」ということで,4000年も続いた地中海世界の古代への熱い思いを語っている。オリエント文明,ギリシャ・ヘレニズム文明,ローマ文明と続く地中海世界の文明は,多種・多彩な人々が人類史上最初の創作と試行をくり返した舞台だといっている。

2024年6月に「地中海世界の歴史1/神々のささやく世界 オリエントの文明」を読み始めて一年半,全8巻を読みえることができ満足。ただし,あまりよくは覚えていない。

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2025/12/17

「八月の銀の雪」を読んだ。

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八月の銀の雪(伊予原新著 2020年 新潮社刊)を新潮文庫(2023年)版で読んだ103。
「八月の銀の雪」「海へ還る日」「アルノーと檸檬」「「玻璃を拾う」「十万年の西風」の短編5編からなる。

「八月の銀の雪」:就活がうまくいかない学生堀井が,コンビニ店員のベトナム人留学生グエンと出会う。グエンは,地球研究所で研究していて,銀の雪を見たいという。地球の内核は液体の外核に浮かんでいて,外核の底で冷えた鉄の結晶のかけらが内核の表面に降るという。そんな仮設。グエンとの会話の中で堀井は ,好きなロボットのことを就活で話そうという思いを抱く。

「アルノーと檸檬」:不動産業者に勤める園田は,アパートを退去するように住人の女性宅を訪れる。女性宅のベランダには,一羽の鳩が来ている。女性の入院中に鳩の世話をすることになった園田は,足輪にあるアルノーの文字が気になった。調べるとその鳩はレース鳩で,飼い主が亡くなって帰るところがなくなってしまっているらしい。

「玻璃を拾う」:珪藻のガラスのアートを作る人の話。玻璃とはガラスのことだそうだ。

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2025/12/04

林住期/五木寛之

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林住期を読んだ(五木寛之著 幻冬舎文庫 2008年刊)102。
古代インドでは,人生を「学生(がくしょう)期」「家住(かじゅう)期」「林住(りんじゅう)期」「遊行(ゆぎょう)期」の四つの時期に考えたそうだ。「学生期」は,親や国家の保護されながら学ぶ時期の25年間。「家住期」は,家族や社会のために働く25年間。「林住期」は,仕事を辞め,真に自分のために生きる25年間。そして「遊行期」は人生のフィナーレの25年。五木寛之氏は,「林住期」執筆時に74歳ということで,林住期のから遊行期への過渡期にあった。18年たった今も現役であることがすばらしい。

五木寛之氏は,「林住期」が人生のピークと言っている。そういえば,自分も2000年ごろから趣味の街道歩きを続けている。やりたいことをやる。できる。もっとも完璧な年金生活になったので,収入が減ってつらいが,あと五年。楽しまなきゃと思う。
この本では,呼吸法についても述べている。息をすることは生きること。鼻から吸って口から吐く。長年せきが続き,医者に行っても治らないという女性にあったそうだが,その女性は口から吸って口から吐いていた。五木氏が「鼻から吸うように」助言したところ,せきが改善したとか。

林住期の終わりに,インドに旅行に行って,ブッダの歩いたとおもわれるところを歩いたそうだ。ブッダは「不殺生」を説いた。つまり「命を大切に」。そして,「盗んではいけない」つまり自然を盗むことをしてはいけない。また,「不飲酒(ふおんじゅ)」酒を飲むなというだけでなく,体を大切にということだそうだ。

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2025/11/29

「セツと八雲」を読んだ。

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「セツと八雲」(小泉凡著:聞き手・木本健二 2025朝日新書)を読んだ102。セツは,小泉八雲の妻で,NHK朝ドラ「ばけばけ」の主人公松野トキのモデルだ。著者の小泉凡さんは,小泉八雲とセツのひ孫にあたり,小泉八雲記念館館長を務めている。この本は,朝日新聞の木本健二さんが,小泉八雲とセツを研究している小泉凡さんから聞き取ったもので,凡さんは「僕」として話している。

八雲の日本での第一作は,「知られぬ日本の面影」。松江の様子や,セツから聞いた言い伝えや怪談を含んでいる。凡さんによると,八雲は一旦この出版契約を破棄しようとしたが,セツが契約破棄の書簡を投函せず,トラブルを避けたとのことだ。
凡の名前は,マッカーサーの軍事秘書として来日したボナー・フェラーズからとったそうだ。フェラーズは昭和天皇を軍事裁判にかけるのを回避するようマッカーサーに働きかけた人物で,残されたセツや子のことを思いやり,亡き八雲の作品の出版にも尽力したそうだ。
八雲の長男一雄は,孫の名前をボナーからとって「凡」としたいとフェラーズに手紙を送ったそうだ。
これらのエピソードは,凡さんでなければ語られなかったと思う。たくさんある八雲関連の本から,この一冊を選んでよかった。

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2025/11/23

原発被災地「小高」の本を読んだ。

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「苦難の日々を心に刻み,再生へ向かって歩む 明日は必ず来る 原発被災地小高」(小高夏期自由大学事務局編著 2025ヨベル新書)を読んだ。101
小高(おだか)は福島県南相馬市小高区のこと。2011年の東日本大震災による東京電力第一原子力発電所の爆発事故により,小高区全域に避難指示が出され無人となった。避難指示が解除となったのが2016年7月。人口は震災前の約1万2千人から3割程度となっている。
しかし小高区では,住民が中心となって街の復興を推進し,東京大学や東北大学をはじめとした研究者や学生が協力して街づくりを行っている。この3年余りの間に,パン&カフェ「アオスバシ」,震災遺構としての「おれたちの伝承館」,ぷくぷく醸造,「小高町歴史郷土史料室」などなど,たくさんの施設ができている。小高区へ引っ越してきて起業する人も多い。元気な町だ。
この本は,そんな小高の人々の活躍とこれからの課題について語り合った「第2回小高夏期自由大学」の記録である。

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2025/10/19

「崋山先生の画帖」を読んだ。

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「崋山先生の画帖」(住田真理子著:2025年 風媒社刊)を読んだ。住田真理子さんの書籍を読むのは,公務員船頭「牛川の渡し物語」に続いて2冊目。東海日日新聞に連載されていた小説で,前作と同様にmichiさんの紹介で知り,購入した。

渡邊崋山は郷土が誇る偉人で,江戸幕府末期に田原藩家老として,また画家として活躍した人物である。天保の大飢饉のときには,食料備蓄庫(報民倉)を築いて領民を助け,藩内から一人の死者を出さなかった話は,有名。 田原藩隠居格の三宅友信の側用人として尽くし,友信に蘭学を勧めている。
崋山は外国船打ち払い令を批判する「慎機論」を書き,未発表の草稿を発見され,投獄されることになる。田原の池の原に蟄居させられてからは,貧しい暮らしの中で絵をかいて生計を維持するものの,「罪人のくせに絵をかいて売っている」という讒言を苦にして,自害している。

この小説では,崋山にかかわる様々な人物の眼から,崋山の生涯をえがいている。誰にでも優しく慕われていた。第一画から第六画まで,話に引き込まれた。
WHAT'S HAGISANで紹介した本は,これで100冊目。

 

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2025/10/03

地中海世界の歴史7/「平和と繁栄の宿命」

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地中海世界の歴史7/「平和と繁栄の宿命」パクス・ローマーナ(本村凌二著 講談社選書メチェ 2025年)を読んだ。99
紀元後54年の皇帝ネロの即位から,284年のディオクレティアヌス皇帝即位までの時代を取り上げている。パクス・ローマーナとは,「ローマによる平和」を意味するそうだ。ローマ帝国が繁栄したこの時代には,地中海世界の各地に,コロッセオをはじめとした円形闘技場や神殿,凱旋門などがつくられている。入浴場や水道橋なども整備され,貴族をはじめ一般市民の生活は向上していた。79年にヴェスヴィオ火山が噴火し,ポンペイの町が埋もれた被害もあった。
闘技場では人と人との決闘が見世物として行われ,勝者は英雄となるが,敗者は殺されるという残忍なことが行われていた。平和な世とはいえ奴隷制もあり,驚かされることが多かった。
五賢帝時代が最も安定していて,114年のトラヤヌス帝のときにローマ帝国の範囲は最大となる。続くハドリアヌス帝は,現在のフランス・イギリス・スペイン・チュニジア・ギリシャ・エジプトなどの属州を3度にわたり視察し,支配を確実なものにしている。ハドリアヌスの属州視察についての記述は,興味深いものがあった。

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2025/09/05

伊予原新/翠雨の人

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翠雨の人(伊予原新著 2025年7月 新潮社刊)を電子書籍で読んだ。

物語は,気象庁を定年退職して数年後,奈良岡が小平霊園にある猿橋勝子の墓に参ったところから始まる。奈良岡は,墓に紫陽花を供えた。勝子は生前「紫陽花は,わたしと気が合うの。雨が好きなのよ―。」とよく言った。翠雨とは,木々の青葉に降る初夏の雨のことだそうだ。
幼いころ雨に興味を持った勝子は,帝国女子理学専門学校に進学する。二年生になった勝子は,実習の中央気象台で三宅泰雄に出会い,「ポロニウムの物理・化学的研究」という研究題目をあたえられる。ポロニウムは,マリー・キュリーが発見した放射性元素だ。
昭和22年,勝子は気象研究所の正規研究員となる。奈良岡は同僚である。その後,アメリカのビキニ水爆実験で降った「死の灰」による放射能汚染の測定にたずさわり,研究の成果が認められた勝子は,東京大学から理学博士号を授与された。そして,平塚らいてふに認められ,国際民主夫人連盟第四回世界大会に派遣され演説した。
猿橋勝子のお別れの会に出席できなかった奈良岡は,自分の孫が医学の道に進むことを報告した。

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2025/06/17

「DTOPIA(デートピア)」を読んだ/難しい。

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第172回芥川賞受賞作「DTOPIA(デートピア)」(安堂ホセ著 2014年11月 河出書房新社刊)を電子書籍で読んだ。実に難しかった。97
恋愛リアリティーショー・デートピアが,フランス領ポリネシアのボラ・ボラ島で開催された。白人のミスユニバースに選ばれるため,世界から10人の男が参加する。
その一人Mr.東京の「キース」と,語り手の「モモ」の関係で話は展開する。かつて「モモ」は性別違和の兆候で,「キース」によって施術を受けている。「モモ」は,日本人の父とポリネシア系フランス人の母に生まれている。
この話ではトランスジェンダー,人種差別,核実験,植民地支配など様々な問題を取り上げている。ポリネシアでは,フランスが核実験を行った。また,植民地ポリネシアにフランスの兵士が残した足跡についても語られている。

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